CRAFT

琉球ガラスについて

大城清善

沖縄県工芸士 / 平成19年 認定番号70

  • 昭和37年8月29日沖縄県糸満市座波で誕生
  • 兼城小・兼城中・南部商業高校を卒業
  • 高校時代に大工のアルバイトをする
  • 同じく高校時代に鉄工所のアルバイトで溶接などの仕事をする
  • そのアルバイトで糸満市のガラス工房「ぎやまん館」の売店建て増し工事の現場にいく
  • 「ぎやまん館」のガラス職人に同じ高校の先輩がいて、職人のアルバイトを誘われる
  • 溶接の仕事で既に熱いのは知っていたが、琉球ガラス工房のアルバイトをする。
  • 高校卒業後、ぎやまん館の社員となる。
  • 昭和58年、21歳の時に「ぎやまん館」など小規模ガラス工場6社が結集し設立した琉球ガラス村の前身である協同組合の立ち上げに参加
  • 琉球ガラス職人一筋で現在に至る
  • ガラス職人になっていなかったら…一筋なので考えられない

きっかけは鉄工場

高校時代のアルバイトは大工や鉄工所の溶接工などの肉体労働が主だったという大城さん。ある時、鉄工所の溶接の仕事の現場で、糸満市の「ぎやまん館」という琉球ガラス工房に行きました。売店の建て増しをするという仕事でしたが、建て増しする所は溶解窯のすぐ近くだったので、作業はとてつもなく暑かった…ということがとっても印象的な現場でした。

しかし、そこは大城さんにとって『運命的な現場』といえる場所になったのでした。大城さんが足場を組んで作業をする下で、琉球ガラスを作る職人に同じ高校の先輩たちがいたのでした。見覚えのある顔のメンバーたちに「アルバイトならここですれば」と誘われて、そこの琉球ガラス工房でアルバイトをすることになったのでした。

2年間そこでアルバイトを続けて、高校を卒業すると同時にそこの社員になりました。それ以来、大城さんは『琉球ガラス職人一筋』ですので、やはり『人生を左右する運命的な現場』だったのでしょう。「琉球ガラス職人になる前の溶接工のアルバイトの時から、ガラス工房の暑さと熱さを知ることができたのはプラスだったかな…」と照れたように話してくれました。

仕上げの助手

取材の日、若造が工房に行くと大城さんはランデブージョッキの仕上げ助手をしていました。普通のビアジョッキは取っ手が上下2点で器に接続されていますが、ランデブージョッキは上部一か所しか器との接点がありません。冷えて固まるまではとっても不安定で、温度管理が難しいそうです。見た目におしゃれなスタイルは、職人さんの知恵と技術と手間によって支えられているようです。

仕上げをする末吉班長とのあうんの呼吸で、助手を務める大城さん。「この工程の助手は高度な技術が必要なんだろうな…」と思う若造の仮説が、びっくり証明されました。来客の案内があり席を外す末吉班長が何やら大城さんに耳うちしています。「帰ってくるまで別のことをしているように」と指示が出たのかと思いきや、大城さんがすぐに仕上げを始めちゃいました。

仕上げができるレベルだからこそ、この工程の助手が務まるのかもしれません。そうは言っても、助手の仕事に没頭していては、急に仕上げを担当するのは難しいことでしょう。常に仕上げの気持ちになって、仕上げ目線で何を望んでいるかを考えているからこそ、とっさの依頼に対応できるのでしょう。…なんてキャリア27年の代理班長もこなす大城さんには、素人の若造分析は当たり前過ぎて大変失礼なことでした…お許しください。

ちろり

琉球ガラス村には『ちろり』という酒器があります。「ちろり」と短時間に暖まるというところに名前の由来を持つ『ちろり』は、本来お酒の燗をする道具です。現在は広く「お酒を注ぐ道具」の名前として使わているようで、琉球ガラス村の『ちろり』は冷酒用です。大城さんが、このお酒を注ぐ道具を作る技術を先輩から引き継いで10年、現在琉球ガラス村では『ちろり』と言えば大城さんと普通に言われるようになっています。

『ちろり』の製作工程についての質問に「助手との呼吸を合わせることがもっとも大切だね。」と大城さん。この酒器の特徴である細くて長い注ぎ口は、ビアジョッキの取っ手のようにガラス素地を後からくっつけるのかと思いきや~~違いました。なんと器の部分から引っ張るんです。ストロー状に穴があいた状態を作るために助手が特殊な道具で息を吹き入れながら、大城さんが引っ張るそうです。正に呼吸を合わせなければできない工程です。 助手との呼吸もバッチリで、タイミングよく引っ張れたとしてもガラス素地の状態で勝手に割れちゃうこともよくあるそうです。繊細な器ですので、温度管理も慎重に手元のバーナーで行います。ここまでの工程も集中しまくりなのですが、この後の「取っ手をつける穴をあける工程」や「それぞれの口の大きさに合わせた蓋作り」も同じくらい集中が必要だそうです。一つ一つを確実にこなしていかなければ、出来上がらない作品ですが、誠実な性格の大城さんだからこそ作り続けることが出来るのでしょう。

製作工程だけでなく県内の展示会を運搬・搬入の担当者や、ご購入いただいて地方発送の梱包する担当者も違う意味で集中しまくりの一品です。ご使用されるとついついお酒が進みます…酔っぱらった状態で洗う場合は、くれぐれもお気をつけください。

意志の疎通

「ガラス職人を辞めたいと思ったことは?」という若造の質問に、大城さんは「ないね。楽しくてしょうがないくらいだよ。毎日作品を作って評価されるっていうことが、飽きない楽しさなのかもしれないね。」と答えてくれました。

そんな大城さんが、作品作りで最も重要視するのがチーム5人のコミュニケーション。「それぞれの能力が上手い下手の前に、みんなが気持よく仕事ができないと決していい作品はできないよ。そのためには意思の疎通は欠かせないね。」と語ってくれました。

若造が以前から疑問に思っていた工房での意思の疎通について「今日もあったのですが、隣にいる若造が聞き取れない内容を離れた場所にいるメンバーはよく理解できますね。」と大城さんに質問すると「実は全部は聞き取れてないんだよ。」というある意味すごいカミングアウト的な発言。「え~そうなんですか?」って驚く若造に「何を言われるかが予想できているから、何を言っているのかわかるんだよ。それにそれを補うアイコンタクトや、大きさや厚さを示す合図が一緒にあるからね。」とわかりやすく説明してくれました。

聞き手:和家若造

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